クレーム対応・一番嫌な仕事

20年以上の施設警備員をやっていて一番嫌な仕事はクレーム対応です。小売店や飲食店その他サービス業に携わった経験のある方はクレーマーに絡まれたことがあるのではないでしょうか。X(旧Twitter)で『#汚客様報告会』とのタグをよく見かけます。サービス業の方が理不尽なクレームで不快な思いをした内容が発信されてますね。近年、カスタマーハラスメント(以下カスハラ)が社会問題になり、悪質なカスハラ客には毅然とした対応で臨む企業・団体が増えているようです。警備業もサービス業、施設来館者に対応する接客業務も主要業務です。しかし、世の中いろんな人がいます。普通に案内しても突然キレる、意味不明な自己主張をして来るなど厄介な来館者も少なくありません。私が体験したカスハラ被害、悪質クレーマーを紹介します。

警備員のお客様対応

出入管理時のお客様対応、訪問部署と身分確認そして受付票に記入のお願いなど施設の入館ルールに則って案内します。我々警備員は「ご協力お願いします」のスタンス、命令するような物言いや指示はご法度です。クレームが発生する原因は悪質なカスハラだけではありません。警備員の態度や口調が悪くてお客様を怒らせることもあります。警備員側に原因があるクレームが来る時、その原因を作るのはほとんど同じ隊員です。当然、そのたびに注意・指導はされますが一向に改善されない、そんなダメ警備員もいました。

商業施設では巡回中にお客様から声をかけられることが多いです。「トイレはどこですか?」「本屋さんは何階ですか?」「○○(店名)に行きたいんですが」など。そうしたお客様の案内だけでなく、落とし物を拾った、財布をなくしたなど届け出や困り事にも対応しなければなりません。中には「あの店員の態度が悪い。注意してくれ」と警備業務外の頼み事をしてくるお客様もいますが、『お客様の声』に書いていただくかカスタマーセンターに申し入れていただくよう案内します。

クレームが多い施設

私の経験上ですが、商業施設と中央省庁はクレームが多かったですね。そして双方ともクレームがあると事実確認もせずに100%隊員が悪いと決めつけて謝罪を強要と始末書の提出、そんなクライアントや会社に納得できないと辞めて行った隊員が多数いました。

最初の警備会社で私服保安員をやりながら休日だけお台場のショッピングモールで勤務、主な業務は巡回でした。当時、ローラーシューズが流行っていてスケート場のように滑る子供が後を絶ちませんでした。衝突事故の危険があり、施設管理からも注意するように指示があったのでローラーシューズで滑らないように注意しました。しかし、ほとんどの親は逆ギレ、「これはこういう靴なんだよ!」「靴脱いで裸足で歩かせるのかよ!」などと怒鳴られてばかりでした。20年以上前の話、警備員に逆ギレする親の姿を見て育ったあの頃の子供が今は人の親になっている可能性大、公共の場所で我が子の迷惑行為を注意されて同じように逆ギレしてるのでしょうか。

同じお台場の現場で悪質なカスハラがありました。立ち入り禁止エリアに勝手に入っている男に移動するようにお願いしたところ「家族のこと見てるんや!」と逆ギレ、しばらくしてその男が移動したので巡回を再開、エスカレーターに乗ったら前に先ほどの男、私を見て「何で後つけるんや!」と言いがかりを付けられました。その後、男は防災センターに怒鳴り込み、私も呼び出されたのですがその時クレーマーに対応したのが施設管理職員と元請け警備会社の責任者、そこに私も同席させられました。同席と言っても2時間も男3人に囲まれて理不尽に説教されて謝罪を強要されました。このカスハラ被害を受けて会社に退職を申し出ました。私服保安がやりたいので別の警備会社で勉強し直す、もうお台場の現場には二度と入りたくないと。しかし、常時人手不足の会社なので退職は聞き入れてもらえず、お台場から外れることを条件に会社に残ることになりました。結局、この会社に9年在籍することになるのですが、現任教育で業務担当からの度重なるパワハラその他ストレスで鬱病を発症といいことはありませんでした。

霞が関中央省庁では約7年、受付業務が主な業務でしたがここもクレーマーが多かったです。国会議員や上級国民がいる施設なので来館者には訪問部署と身分確認をお願いしてますが、こうした入館ルールが気に入らないと文句を言われることが多かったです。施設のルールに関することを警備員に文句言っても何も解決しないのでそのように説明しても話が通じない人種が多かったです。幹部に面会に来る客もクレーマーが多かったです。面会先の幹部は偉いけどだからと言って客も偉いわけじゃない、受付も混雑時は順番に並んで待ってもらいます。でも客側は勘違いして「俺は事務次官に会いに来てるんだ!」と威張るんですね。特別扱いしてもらえないのがご不満なようでした。厄介だったのは自称OB、「ここのOBなのになんでいちいちこんな物(受付票)書かなきゃいけないんだ!」と。『OBだから何?既に退職してるんだから今は部外者、部外者は入館手続きしないと入れないんだよ』と心で呟いていました。OBと言っても元幹部や元局長はこちらも顔と名前は認知してます。でもこうした方々はルールに従って黙って記帳してくれます。下っ端で定年を迎えた木っ端役人に限って威張るんですね。

中央省庁には社用ではなく、一般の国民が相談や苦情に来ることがあります。この人達は入館時に訪問部署や用件を聞かれて身分証の提示を求めただけで「人を不審者扱いしやがって!」と逆ギレします。この手のクレーマーに絡まれたら最悪です。1~2時間は受付に居座り、くだらない持論をまくし立てられます。おもてなしを要求するおかしなクレーマーもいました。門で立哨してた男性警備員に誰何されたのが不快だったようで、受付に来るなり「客をおもてなしする気持ちがないのか!」に始まり、「責任者を呼べ」「国会議員に知り合いがいるからな!」と脅し文句(全然脅しになってないけど)まで言いたい放題でした。おもてなしって警備業務なのでしょうか?おもてなしの気持ちでお客様と接することはできてもお茶やお菓子をお出しすることはできませんね。

他にもおかしなクレーマーはたくさんいましたがあげたらキリがないのでこの辺にしておきます。

クレーム対応でレベルアップ?

クレーム対応を数多く経験すれば警備員としてのレベルアップに繋がるのでしょうか。私は人それぞれだと思います。クレーム対応の場数を踏んで実力が付く隊員もいるでしょうが、逆にメンタルが壊れてレベルアップどころか警備業界から退場してしまった隊員を何人も見て来ました。

隊員がカスハラ被害に遭った時、クライアントも警備会社も面倒事は避けたいので、被害隊員にはその場で適当に謝ってもらって収束させることを望みます。しかし、悪者にされた被害隊員は心に大きな傷を負うことになります。私も巡回業務を遂行していただけなのに「後を付けた」などと理不尽な言いがかりを付けられて心に深い傷を負いました。20年以上経った今でもこの傷は消えません。鋼のようなメンタルの持ち主ならクレーム対応も業務経験の一つとして捉えることができるでしょう。でもメンタルが弱い人、特に弱くなくても普通以下の人ならクレーマーの暴言に耐えられないでしょう。私も中央省庁時代に連日のカスハラが原因で過去の鬱病が再発して休職する羽目になりました。

まとめ

①クレーム対応も警備業務の一つ。クレームは全てカスハラとは限らない。施設職員や警備員の対応がお客様を不快にさせていることもある。

②施設によってクレームの発生頻度は違う。常に不特定多数の人が出入りする商業施設や出入管理が厳しい省庁はクレームが多い。

③クレーム対応の経験を積んで警備員の質が向上することもあるが、逆にメンタルが壊れて警備業界を去る隊員もいる。

以上、クレーム対応についてでした。昭和を代表する歌手、三波春夫さんの『お客様は神様です』が都合よく解釈されて『お客様は金払ってるんだから何をされようが我慢して尽くす』『お客様絶対主義』が長年浸透してました。しかし、最近はサービス業界も理不尽な要求や暴力を伴うクレームに対しては出入り禁止措置や警察への被害届など対策を講じてるようです。令和5年(2023年)、旅館業法が改正されてカスハラ客の宿泊を拒むことができるようになりました。旅館・ホテル業界だけでなく、カスハラを犯罪と認定して悪質クレーマーを法で裁けるように『カスハラ防止法』を制定してもらいたいですね。カスハラに苦しめられた警備員の一人としてサービス業界の労働者が気持ち良く働ける世の中になることを心から願っています。




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